民事再生(個人再生)をすれば、原則として損害賠償・慰謝料の減額を受けることができます。
ただし、①債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償・慰謝料、②債務者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償・慰謝料は、個人再生をしても減額を受けることができません(民事再生法239条3項1号・2号、244条)。
上記①の「悪意」とは、単なる「故意」ではなく、積極的な「害意」があることを意味します。
例えば、不倫・浮気による慰謝料であれば、単に不倫・浮気相手が既婚者であることを知りながら性的関係を持ったという「故意」があるだけならば、「悪意」とまでは言えません。
「悪意」と言えるのは、被害者の配偶者を一方的に操り、被害者夫婦の家庭生活を積極的に破たんさせるというような「害意」まである、というレベルに限られます。
その他、上記①の例として、他人の金品を盗んだり詐欺で騙し取ったりしたことによる損害賠償、会社の金銭を横領したことによる損害賠償、暴行・傷害を加えたことによる損害賠償・慰謝料、配偶者に対する暴力(DV)による損害賠償・慰謝料などは、個人再生をしても減額を受けることができません。
また、上記②に関し、例えば、交通事故による損害賠償・慰謝料であれば、わき見運転のような単なる「過失」(不注意)による事故の場合には、個人再生をすれば減額を受けることができます。
しかし、飲酒運転、居眠り運転、無免許運転など、「重大な過失」による交通事故を起こし、被害者に怪我を負わせたり死亡させたりした場合には、個人再生をしても損害賠償・慰謝料の減額を受けることができません。
なお、債務者が自動車保険に加入しているのであれば、故意による交通事故の発生でなければ、重大な過失による交通事故の発生であっても、保険会社が債務者に代わって被害者への損害賠償を行うこととなります。
以上のように、一定の悪質な不法行為による損害賠償・慰謝料は、個人再生による減額を受けることができません。
ただし、減額を受けることができないような損害賠償・慰謝料であっても、個人再生の手続の対象にはなります。
法律上、再生計画に従って分割弁済している間は、これらの損害賠償・慰謝料についても、再生計画と同じ一般的な基準に従って弁済すれば足りるとされています(民事再生法232条4項、244条)。
要するに、他の借金が5分の1に減額される場合は、再生計画に従って分割弁済している間は、このような損害賠償・慰謝料も5分の1だけ分割払いしていればよいということになります。
しかし、再生計画に従った分割弁済の期間が満了した時に、残額を一括で支払う必要があります(民事再生法232条4項、244条)。
そのため、このような損害賠償・慰謝料の支払義務がある場合には、事前にしっかりと資金計画を立てておく必要があるでしょう。