手続:消滅時効援用、差押範囲変更の申立て
性別:男性
年代:70代
借金額:260万円
依頼者の状況
依頼者は、15年程前に、貸金業者1社から支払督促を申し立てられ、裁判所から仮執行宣言付支払督促命令が出されていました。
その後、債権者から催促の手紙が来ていましたが、そのまま放置していました。
そうしたところ、ある日突然、相手会社(貸金業者から債権を譲り受けた会社)から、元金と遅延損害金を合わせて260万円の債権に基づいて、依頼者の預金口座の差押えの申立てがされました。
差押えを受けた預金口座は、依頼者の生活に必要な年金が振り込まれている預金口座でした。
そのため、依頼者は、生活に支障が生じないように対応して欲しいとのことで、当事務所にご相談に来られ、ご依頼をいただくこととなりました。
当事務所の対応と結果
当事務所の弁護士が関係資料を確認したところ、差押えの根拠となっている債権は、仮執行宣言付支払督促命令が出されてから10年の消滅時効期間が経過しており、再度の判決や支払督促命令を受けたこともありませんでした。
そのため、当事務所の弁護士は、消滅時効の援用によって、返済の義務を免れることが可能であると判断しました。
また、差押命令書が届いた翌日のご相談・ご依頼であったことから、すぐに債権者の取立てを防ぐ必要があったところ、そのために必要な措置としては、差押えを受けた預金口座には依頼者の生活に必要な年金だけが振り込まれていたことから、差押範囲変更の申立てが適していると判断しました。
そこで、当事務所の弁護士は、ご依頼の当日に、相手会社に対して、消滅時効を援用することを記載した通知書を発送するとともに、翌日に、裁判所に対して、差押範囲変更の申立てと、「支払その他の給付の禁止」命令を求める申立てを行いました。
そうしたところ、差押範囲変更の申立ての当日に、裁判所から、「支払その他の給付の禁止」命令が出されました。
当事務所の弁護士は、その命令書をFAXで第三債務者である銀行へ通知するとともに、裁判所に対しては、最近の郵便事情を踏まえて、速達で命令書を送付するようにと上申書を提出してたため、すぐに銀行へ命令書が届き、債権者への支払いを止めることができました。
さらに、差押範囲変更の申立てから数日経過したところで、相手会社から裁判所へ、差押えの申立てを取り下げるという取下書が提出されました。
そして、差押えによって銀行が依頼者の預金口座から引き去り保管していた金員全額が、無事に預金口座へ戻ったことを確認しました。
これにより、預金口座の差押え・取立てを免れるとともに、元金と遅延損害金を合わせて260万円の借金の返済の義務を免れることに成功し、依頼者の生活に支障が生じないようにするという目的を達成することができました。
所感(解決のポイント)
消滅時効は、債権者に対して援用の通知をして初めて、返済の義務を免れるという効力が発生します。
そのため、消滅時効期間が経過した債権であっても、消滅時効の援用がされていなければ、この債権による預金口座の差押えは可能です。
そして、この場合の差押えの手続では、債務者に差押命令の決定書が届いてから1週間が経過すると、債権者は、差し押さえた債務者の預金口座からお金を取り立てること(第三債務者である銀行から、口座にあったお金の支払を受けること)が可能となります。
この取立てが完了すると、もはやお金を取り戻すことはできないばかりでなく、消滅時効期間は更新(時効期間が再び開始)されることとなります。
したがって、差押命令書が届いてから1週間以内に、必要な措置を取らなくてはなりません。
ここで、債権者や差押命令を出した裁判所に対して、消滅時効の援用通知をしても、差押えの手続は止まりません。
ここでは、請求異議の訴えという訴訟手続をして、その中で消滅時効の援用をしなければなりません。
また、請求異議の訴えは、終結まで時間がかかりますが、その間は差押えの手続は止まりません。
そのため、請求異議の訴えで勝訴したとしても、すでに取立てが完了し、差押えの手続が終わってしまうと、結局、もはやお金を取り戻すことはできないばかりでなく、消滅時効期間は更新されてしまいます。
このことを防ぐためには、請求異議の訴えと同時に、差押命令を出した裁判所に対して、差押えの手続の「執行停止」を申し立てる必要があります。
裁判所から執行停止の決定があった場合、請求異議の訴えの手続が終結するまでの間、差押えの手続は一時的に停止されます。
そして、請求異議の訴えで勝訴すると、差押えの手続を取り消すという内容の判決書によって、差押えの手続は取り消されるということになるわけです。
他方で、債務者の生活状況等を考慮して、差し押さえられる範囲の変更(差押命令の一部または全部の取消し)を求める手続があります。
特に、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利により保障されている公的年金や生活保護費など差押えが禁止されている権利に基づいて入金された預金口座は、差し押さえられることによって生活が出来なくなってしまうわけですから、基本的に取消しが認められることになります(なお、差し押さえが禁止されているのはあくまでも年金等を受け取る権利で、年金等が預金口座に振り込まれると、その瞬間から年金は預金となり、差押えの対象となってしまいます)。
この場合も、結果が出るまで差押えの手続は止まりませんので、取立てを一時的に止めるために、合わせて、支払その他の給付の禁止(銀行が債権者に支払を行わず、銀行がその分を取り置いておくこと)を求めておく必要があります。
なお、差押範囲の変更が認められても、債務が無くなったり、減ったりするわけではありません。
本件では、当事務所の弁護士が、関係資料や依頼者の生活状況を踏まえて、請求異議の訴えと執行停止の申立てによらずとも、差押範囲変更の申立てにより、依頼者の目的を達成することが可能との判断から、手続を進めていきました。
この手続選択によって、より迅速に、依頼者の目的を達成することができました。
お客様の声
スピードある対応で、大変、感謝しております。
色々、お世話になり、ありがとうございました。
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