民事再生(個人再生)の認可後に、昇進や事業の成功により収入が大幅に増える場合や、相続などによりまとまった財産を確保できることがあります。
そのような場合に、裁判所の認可を受けた返済計画どおりに継続的に支払うのではなく、一括で返済したり、繰り上げて返済したりすることは可能なのでしょうか?

1 一括返済・繰上げ返済の可否

民事再生(個人再生)の認可後に一括返済や繰上げ返済をすることは、可能です。

ただし、一括返済・繰上げ返済には条件があり、また、注意すべき点もあります。

2 一括返済・繰上げ返済のメリット

まず、心理的な負担を軽減できることがあげられます。
再生計画が認可されたとはいえ、毎月借金の返済を続けることは、心理的な負担となります。
一括返済を行えば、借金から解放され、心理的な余裕も出ます。
また、繰上げ返済でも、返済期間の短縮によって同様のメリットがあります。

また、振込手数料の負担を軽減できることがあげられます。
再生計画に基づく弁済を、銀行での振込みによって行う場合には、振込手数料が発生します。
1回数百円程度とはいえ、複数回複数の振込先に振り込む必要があることを考えれば、削減したい費用でしょう。
そこで、一括返済・繰上げ返済をすることで、振込手数料を削減し、コストカットが可能となります。

なお、一括返済・繰上げ返済は、債権者にとってもメリットとなるものです。
民事再生(個人再生)で圧縮された債務には利息は付きませんので、債権者にとっては分割での返済を待つことにはメリットがありません。
むしろ、再生計画が認可されたとしても、債務者の病気や失業により、分割払いが受けられなくなるリスクが残っています。
これに対し、一括や前倒しで返済を受けられれば、債権者としても、すぐに返済予定額の全額が手元に入り、回収不能のリスクを回避できるというメリットがあるのです。

3 一括返済・繰上げ返済の注意点

民事再生(個人再生)の手続では、債権者平等原則というルールがあります。
そのため、一括返済・繰上げ返済をする場合には、各債権者に対し、支払額に応じて均等に支払わなければなりません。
裏を返せば、一部の債権者だけに優先的に返済したり、一部の債権者には返済しなかったりすることは認められません。

また、一括返済・繰上げ返済を行う時期にも注意をする必要があります。
再生計画に基づく分割返済が始まってすぐに一括返済を申し出た場合、債権者から「一括返済をするだけの余裕があるのに、どうして個人再生を行ったのだろう。実際は財産を隠していて、そもそも減額する必要がなかったのではないだろうか?」と疑われるおそれがあります。
そのため、弁護士に相談するなどして、適切なタイミングに、返済の前倒しが可能となった正当な理由を示したうえで、一括返済・繰上げ返済を行う必要があります。

一括返済・繰上げ返済を行うことには、先に述べたようなメリットがあります。
しかしながら、無理に生活費を切り詰めてまで一括返済・繰上げ返済を行うことには慎重になるべきです。
心理的な負担の軽減や振込手数料の削減を図って一括返済・繰上げ返済を行ったとしても、予期せぬ出費や入院等により、再度生活が困窮してしまう可能性があります。
再生計画に沿った弁済の場合、利息は発生しませんので、無理をしてまで一括返済・繰上げ返済をする必要はないでしょう。

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